大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和59年(て)377号 決定

被請求人徐英樹(ユンソース)

主文

本件は、逃亡犯罪人を引き渡すことができる場合に該当する。

理由

ユン・ソー・スは、他の者と共謀のうえ、ボー・ヒー・パクの近親者その他同人の安否を憂慮する者からみのしろ金を得る目的で、アメリカ合衆国ニューヨーク州ニューヨーク市内において同人を略取誘拐する罪を犯し、日本国内に逃亡した逃亡犯罪人であるとして、昭和五九年一一月八日、アメリカ合衆国から日本国に対し、日本国とアメリカ合衆国との間の犯罪人引渡しに関する条約(以下、単に条約という。)九条一項に基づき仮拘禁の請求があり、同月二二日、逃亡犯罪人引渡法(以下、単に法という。)二五条一項による仮拘禁許可状によって拘禁され、現在東京拘置所に拘束されている者であるが、同年一二月二四日、アメリカ合衆国から日本国に対し条約八条に基づいて同人の引渡しの請求があり、同月二五日、東京高等検察庁検察官から当裁判所に対し法八条により右逃亡犯罪人引渡しについての本件審査の請求がなされた。

そこで一件記録を調査して検討するに、本件引渡しの請求が条約及び法の定める手続に合致していることが認められ、当裁判所における審問の結果をも併せ検討すると、アメリカ合衆国から引渡しを求められている逃亡犯罪人ユン・ソー・スは、現在東京拘置所に拘禁され、当裁判所の審問期日に出頭したユン・ソー・スと同一人物であることが明らかである。

そして、同人が別紙記載のとおりの引渡し犯罪に係る行為を行ったことを疑うに足りる相当な理由があること、右行為は条約二条一項、同条約付表に規定する犯罪であって、同項所定のアメリカ合衆国及び日本国の法令により死刑又は無期若しくは長期一年を超える拘禁刑に処することとされているものであるとの要件を充足するものであること、右引渡し犯罪に係る裁判が日本国の裁判所において行われたとした場合には、日本国の法令によって刑罰を科し、これを執行することができるものであることが認められる。

その他、本件請求が、条約、法に規定する引渡しを制限する事由に該当する事由も認められない。

よつて、本件は逃亡犯罪人を引き渡すことができる場合に該当すると認められるので、法一〇条一項三号により主文のとおり決定する。

(海老原 小田 阿部)

別紙

逃亡犯罪人は

第一 スー・イル・イーらと共謀のうえ

一 ボー・ヒー・パクの近親者その他同人の安否を憂慮する者からみのしろ金を得る目的で、昭和五九年九月二三日アメリカ合衆国ニューヨーク州ニューヨーク市内において、前記ボー・ヒー・パクに対し、けん銃を突きつけるなどして同所スレイトヒル・リッジベリロード三四二番地まで連行し、もって、ボー・ヒー・パクを略取したうえ、同月二五日、同人をニュージャージィ州に移送した

二 前同日から同月二五日までの間、前記スレイトヒル・リッジベリロード三四二番地所在の建物内において、前記ボー・ヒー・パクを椅子に縛りつけるなどして、同人をして、同建物からの脱出を不能ならしめて監禁するとともに、その間、同人に対し一〇〇万ドルを支払わなければ解放しない旨申し向け、同人をして右要求に応じなければ同人の生命身体にいかなる危害を加えられるかもしれない旨畏怖させたが、同人がその要求に応じなかったため、金員喝取の目的を遂げなかった

第二 ボー・ヒー・パクから金員を喝取しようと企て、昭和五九年一〇月二五日ころ、日本国東京都内からアメリカ合衆国ニューヨーク市所在の同人に対し、電話で金員を要求し、これに応じなければ同人が所属する統一教会会員らの居住する建物に放火する旨を申し向け、同人をしてその旨畏怖させたが、同人がその要求に応じなかったため、金員喝取の目的を遂げなかった

ものである。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例